「生成AIを入れるなら、どの製品がよいか」。この問いから始めると、導入後に困ることがあります。受注メールの内容を担当者が別のシステムに転記している業務にAIを載せても、転記という仕事は残ったまま。速くなる可能性はありますが、メールとシステムの間の断絶まで解消したわけではありません。

先に調べたいのは、人が休んでも仕事が進むか、記録が残るか、システム同士がつながるかです。動画「AI導入の前に見るべきもの」で提示した業務レベル0〜4を、ここでは自社の仕事を棚卸しするための物差しとして整理します。これは公的な成熟度認定ではなく、業務ごとの現在地を話し合うための目安です。

「人の作業をAIに置き換える」の前に、流れを見る

受注の例で考えてみます。顧客からPDFが担当者個人のメールに届き、担当者が数量を読み、表に写し、別システムへ手入力する。休暇中には処理が止まり、後から確認する際もメール、表、システムを探し回ることになります。

ここでAIにPDFを読ませて表を作っても、個人の受信箱が入口であること、正本がどこか分からないこと、転記後の結果を追えないことは変わりません。作業の自動化と、業務フローの改善は別の話です。AIを試す前に、依頼の受付から完了までを一本の線で描き、誰がどこで受け渡しているか確認します。

業務レベル0〜4を、業務単位で当てはめる

レベル その業務の状態 見分ける問い
0 メール、電話、個人の記憶に依存 担当者が不在でも、次の人は現在地を把握できるか
1 ファイルの置き場は共有されている 置き場以外に、処理の順番と完了記録は決まっているか
2 システムはあるが、人が転記・照合してつなぐ 同じ情報を別の画面へ打ち直していないか
3 API等でシステムがつながり、処理記録が残る 受け渡しの結果や失敗を後から追えるか
4 定型の流れは人の介在なしで進み、人は監視・改善に集中する 例外処理と改善に人の時間を使えているか

会社全体に一つの点数を付けるための表ではありません。請求はレベル3でも、問い合わせ対応はレベル0かもしれません。また、年に一度の軽い作業を無理にレベル4へ上げる必要もありません。頻度、重要度、止まったときの影響を合わせて考えます。

たとえば受注が毎日発生するなら、担当者の受信箱に依存する状態は優先して直す価値があります。一方、例外的な個別契約は人が判断する設計が適切な場合もあります。「人をなくす」が目的ではなく、人の判断が必要な場所を残し、それ以外の停滞を減らすのが目的です。

AIの前に確認する、三つの設計ポイント

1. データが残るか

受付時刻、担当、処理結果、例外の理由が共有の仕組みに残っていれば、遅延や再作業を事実から見つけられます。個人のメールやローカルの表にしか記録がないなら、AIに分析を頼む以前に、分析の材料がありません。何を正本とし、誰が参照できるのかをまず決めます。

2. 境界を越えるとき、人が転記していないか

「業務システムはあるのに人手が減らない」ときは、システム間の受け渡しを見ます。連携できるAPIや標準の接続手段があるか、入力の重複をなくせるかを確認してください。画面操作の自動化がすべて悪いわけではありませんが、画面変更のたびに壊れる連携へ依存する前に、業務の入口・出口を見直す余地があります。

3. 例外を誰がどう扱うか

無人で動く部分が増えるほど、失敗に気づけない設計は危険です。処理できなかった注文はどこに残り、誰に知らせ、どう再開するか。レベル4を目指すなら、正常時の速さだけでなく例外と監視を一緒に設計します。

何を変えるか——SaaS、共通基盤、自社開発

どの選択肢がよいかは、業務の独自性で変わります。一般的な事務処理なら、既存SaaSの標準的な流れに業務を合わせられないか検討する。複数部門に似た業務があるなら、共通基盤で記録や運用をそろえられないか考える。顧客に提供する価値そのものを左右する中核業務なら、自社開発に投資する理由が生まれます。

いずれを選んでも、「他と連携できるか」「記録を取り出せるか」「改善し続けられるか」を確認します。AIに画面を操作させられるかどうかだけで製品を選ぶと、業務の変更に追いつけない構成を増やしかねません。

既存システムが複数の業務の共通の詰まりどころなら、現場に小さな自動化を積み重ねるだけでは解決しません。移行の費用や停止リスクを引き受ける判断が必要になるため、経営が順番と到達点を決める課題です。すべてを一気に置き換えるという意味ではありません。

最初の一歩は、一本の業務を端から端まで描くこと

  1. 頻度が高い、または止まると影響が大きい業務を一つ選ぶ。
  2. 依頼の到着から結果の通知まで、担当者・使う道具・転記箇所・残る記録を並べる。
  3. 上の物差しで現在地を仮置きし、「どこを直せば次の段階へ進めるか」を決める。
  4. 目標を定める。たとえば「担当者不在でも受付を共有できる」「転記を一箇所なくし、失敗を追える」など、確認できる状態で書く。
  5. 現場で起きている例外を聞き、全体に影響する障害物は経営側の意思決定に上げる。

大切なのは、AI導入の成果をAIの利用回数だけで測らないことです。処理が止まる時間、転記と手戻り、原因を調べる時間が減ったか。そこまで見て初めて、導入した意味を判断できます。

表だけでは自社の業務をどの段階に置くか迷う場合は、元の動画で業務レベルを具体例から考える流れ(無料)を見てください。記事で物差しを押さえた後、実際の業務を思い浮かべながら聞くと、どこから手を付けるかを決めやすくなります。

この記事は2026年8月25日公開の動画の文字起こしを素材に、業務の棚卸しに使えるよう再構成しました。レベル0〜4は動画内で提示した簡易的な分類であり、標準規格ではありません。