Microsoftのサービスにサインインしようとして、メールアドレスを入れたところでこう聞かれたことはないでしょうか。「職場または学校アカウント」と「個人用アカウント」、どちらを使いますか。

入れたのは自分のメールアドレス1つだけです。それなのに選択肢が2つ出てくる。多くの人はここで適当に片方を選び、うまく入れなければもう片方を試します。

この画面が出るのは、同じ名前のアカウントが2つ、別々に存在しているからです。見た目は同じ [email protected] でも、片方は会社が作って管理しているアカウント、もう片方は本人が自分で作ったアカウントで、中身も持ち主もまったく別物です。どちらを選ぶかで、入る先のメールボックスもファイルも変わります。

この記事では、Microsoftのアカウントがなぜ2種類あるのか、同じ名前の「別人」がどういう順番で生まれるのか、そして仕事でどちらを使うべきかを整理します。結論を先に書くと、仕事で使うのは組織が管理する「職場または学校アカウント」だけです。個人用のMicrosoftアカウントは、どれだけ便利でも仕事のために作らないでください。

Microsoftのアカウントは2種類ある

MicrosoftのクラウドサービスにサインインするIDは、大きく2種類に分かれます。

職場または学校アカウント Microsoftアカウント
別名 組織アカウント 個人アカウント、MSA
どこにあるか 組織のMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)の中 Microsoftが個人向けに運営する仕組みの中
誰が作るか 組織の管理者 本人が自分で
誰が管理するか 組織(パスワードのリセット、削除、アクセスの停止まで) 本人
サインインIDにできるアドレス 組織がEntra IDに登録した独自ドメインのアドレス(@example.com など) 新しく取る @outlook.jp・@outlook.com、または手持ちの既存アドレス(独自ドメインでもよい。ただしそのドメインがEntra IDに登録されていないこと)
料金 ID自体は無料。メールやTeamsなどはライセンスを買って割り当てる 無料でメールとオンラインストレージが付いてくる
想定している使い手 企業・学校などの組織 個人と、その家族

画面やドキュメントに「職場または学校アカウント」と出てきたら、それは組織のEntra IDの中にいるユーザーのことです。「Microsoftアカウント」は個人のアカウントを指し、MSAと略されます。ブログなどで「MSA」と出てきたら、個人アカウントのことだと読み替えてください。

どちらでもWindowsにサインインでき、Officeアプリを使え、Teamsのように両方を受け付けるサービスもあります。同じようなことができてしまうのが、区別を難しくしている最初の理由です。2種類の比較と、どちらでも使えるサービスの話は、動画では2分42秒あたりから(無料)図を指しながら順に整理しています。

無料で何でもできる個人アカウントを、会社で使わない理由

表だけ見ると、個人アカウントのほうがお得に見えます。無料でメールもストレージも付き、組織アカウントはサービスごとにライセンス費用がかかります。実際、個人にとってはその通りで、1人でWindowsやOfficeを使うなら個人アカウントで困ることはありません。

違いが出るのは組織で使うときです。組織アカウントには、個人アカウントに無いものがあります。

  • ドメインを組織のものとして登録できる。組織が持っているドメインをEntra IDへ登録し、そのドメインのアカウントを組織が発行する。個人アカウントも独自ドメインのアドレスをIDにはできるが、それは本人が既存のアドレスを名前として使っているだけで、ドメインを誰かが管理しているわけではない
  • 管理者がユーザーとグループを作って管理できる。入社したら作り、異動したら権限を変え、退職したら止める
  • 企業向けのサービスが使える。Exchange Online、OneDrive for Business、SharePoint Onlineなど

個人アカウントにも「メンバー管理」に近い機能はありますが、それは家族のためのものです。親が子どものアカウントを見守る、といった範囲に限られます(8分11秒あたり)。

この分け方は偶然ではなく、Microsoftが意図してアカウントの種類もサービスも「個人用」と「組織用」に分けているということです。分かりやすいのが製品名で、「Microsoft 365 Personal」と「Microsoft 365 E3・E5」は名前が似ていますが、前者は個人アカウントで使う個人向け、後者は組織アカウントに管理者がライセンスを割り当てて使う組織向けです。この対比は10分59秒あたりで取り上げています。

つまり問うべきは「どちらが高機能か」ではなく、**「そのアカウントの持ち主は誰か」**です。持ち主が本人なら個人アカウント、持ち主が組織なら組織アカウント。この1点を外さなければ、画面や製品名が変わっても判断を間違えません。

同じ名前の「別人」は、こういう順番で生まれる

では、冒頭の「どちらを使いますか」はなぜ出るのでしょうか。よくある順番をたどってみます。

  1. ある会社は、自前のメールサーバーで @example.com のメールを運用している。社員の胡田さんは [email protected] を持っている
  2. 胡田さんは、個人でMicrosoftのサービスを使うためにMicrosoftアカウントを作る。個人アカウントは新しく @outlook.jp を取ることもできるが、手元のメールアドレスをサインインIDにすることもできる。そこで会社のアドレス [email protected] をIDにする
  3. その後、会社がMicrosoft 365を導入する。Entra IDに example.com を登録し、社員の組織アカウントを作る。胡田さんの組織アカウントも [email protected] になる

この時点で、[email protected] という見た目が同じで、種類も持ち主も違う2つのアカウントが世の中に並んで存在します。片方は胡田さんが持っている個人アカウント、もう片方は会社が持っている組織アカウントです。別々に作られた別物なので、パスワードも中身も別です。この流れは、動画の13分10秒あたりから(無料)、メールシステムとEntra IDを図に描き足しながら追っています。2つのアカウントが並ぶ最後の図は16分17秒あたりです。

こうなると、サインイン画面に [email protected] と入れても、Microsoftにはどちらのことか分かりません。だから「職場または学校」か「個人」かを聞き返してきます。IT部門に「アカウントは [email protected] です」と伝えても同じで、名前だけでは相手が特定できないのです(18分16秒あたり)。

いまは新しく作れない。ただし、前からあるものは残っている

この重複はMicrosoft自身も問題視していて、現在はEntra IDに登録済みのドメインのメールアドレスでは、新しく個人アカウントを作れないようになっています。作ろうとすると、職場または学校のメールアドレスでは登録できない、個人のメールアドレスを使うか新しいOutlookのアドレスを取るように、と案内されます。

Microsoftはこの変更の理由として、次のような問題を挙げています。

  • 個人アカウントに仕事の文書を保存して、会社の規則を守っているつもりになってしまう
  • 退職して会社のメールを受け取れなくなると、パスワードを忘れたときに個人アカウントへ戻れなくなる。逆に、会社のIT部門が元社員の個人アカウントのパスワードをリセットして入れてしまう
  • IT部門は「会社のアドレスだから会社の管理下にある」と思い込むが、実際には本人がいつでもIDを別のアドレスに変えられる

ただし、止まったのは新規作成だけです。ドメインがEntra IDに登録される前に作られた個人アカウントは、消されずにそのまま残っています。上の1〜3の順番は、まさにこの「前から残っているもの」ができる順番です。古くから同じアドレスを使っている人ほど、2つのアカウントを持っている可能性があります。

自分の個人アカウントが会社のアドレスをIDにしているなら、個人アカウントのほうのサインインIDを、個人のメールアドレスや新しい @outlook.jp に変えるのが根本的な解決です。変えるのは個人アカウントの名前だけで、中のデータはそのまま、会社のアカウントにも影響しません。ただ、会社の指示でそのアドレスの個人アカウントを作った経緯がある場合は、変える前に管理者に確認してください。

招待するときは、どちらが呼ばれるか

同じ名前の2つのアカウントは、別の組織から招待されるときにも問題になります。Entra IDには、他の組織のユーザーを自分のテナントへゲストとして招待する機能(B2Bコラボレーション)があります。招待する側は、相手のメールアドレスを1つ入れるだけです(19分15秒あたり)。

ここで、相手が同じアドレスで組織アカウントと個人アカウントの両方を持っていたら、招待されるのはどちらでしょうか。入れたのはアドレス1つだけで、どちらを招待するのかを指定する欄はほとんどの画面にありません。

Microsoftのドキュメント上は、招待を受け取った人が承諾するとき、組織アカウントと個人アカウントの両方に一致すれば、どちらで受けるかを本人が選べることになっています。ところが実際には、選ぶ画面が出ずに片方へ決まってしまい、困ることが少なくありません。招待は、Entra管理センターからだけでなく、TeamsやSharePointの共有画面、各種アプリの「メンバーを追加」など、招待の画面を持つアプリがそれぞれ行うものです。どの経路で招待し、どの経路で承諾したかによって動きが変わり、同じ経路でも時期によって変わってきました。

さらにややこしいのは、入力するのが「メールアドレス」だとは限らないことです。組織アカウントのサインインIDは、正確にはメールアドレスではなく**UPN(ユーザープリンシパル名)**という別の値で、多くの組織では同じにしていますが、違う組織もあります(20分53秒あたり)。どちらのアカウントが作られた順番、どちらにメールが紐づいているか、UPNとメールアドレスが同じかどうか——こうした条件の組み合わせで結果が変わるうえ、クラウドサービスなので画面も挙動も変わり続けます(22分13秒あたり)。

つまり、同じアドレスで2つのアカウントがある相手を招待すると、どちらが呼ばれるかは確実には分かりません。 細部の挙動を覚えるより、両方あると取り違えが起きる構造そのものを知っておき、招待したあとに相手のゲストがどちらのアカウントで入ってきたかを確かめるほうが確実です。Entra管理センターのゲストユーザーの情報で、個人アカウントから入ってきた場合はそれと分かります。

会社の指示で個人アカウントを作らされそうになったら

いちばん気をつけてほしいのが、仕事のために個人アカウントを作るケースです。たとえば、こんな指示です。

  • ある業務のために個人アカウントを1つ作り、そのパスワードを部署のみんなで共有して使う
  • 資格試験を受けるために、会社が決めた命名規則(名前_会社名@outlook.jp など)で個人アカウントを作らせ、会社で一覧にして管理する

どちらも一見うまく回ります。無料のメールボックスも付いてくるので、手軽にさえ見えます。けれども、そのアカウントの持ち主は誰でしょうか。個人アカウントは、Microsoftが個人が自分で管理する前提で作っているものです。会社が作らせ、会社の都合で共有したり一覧にしたりすると、持ち主が本人なのか会社なのか分からなくなります。退職、異動、パスワードの紛失が起きたとき、誰にも正しく管理できないアカウントが残ります。この「やってはいけない」理由は、動画の24分26秒あたりからでかなり時間を割いて繰り返しています。

資格そのものは本人のキャリアに付くものなので、本人が自分の判断で、自分で管理する個人アカウントを使うのは自然なことです。問題は、会社が個人アカウントを会社の持ち物のように作らせ、管理しようとすることです。組織として管理したいものは、組織アカウントで扱います。

仕事の話の中で「Microsoftアカウントを作ってください」と言われる場面は、実際にあります。それでも、個人アカウントが必要になるのは一時的な例外で、企業のサービスは組織アカウントを使うのが基本です。会社の指示で個人アカウントを作ることになったら、一度立ち止まる。それだけで、後から辻褄が合わなくなる運用の多くを防げます。

どちらを使うか迷ったときの判断

状況 使うアカウント
自宅のPCで、自分のためにWindowsやOfficeを使う 個人アカウント
会社から貸与されたPCで仕事をする 組織アカウント
会社のメール、Teams、SharePointにアクセスする 組織アカウント
取引先のTeamsやSharePointに招待された 仕事の関係なら組織アカウントで承諾する
サインインで「職場または学校」か「個人」かを聞かれた そのサービスの持ち主が会社なら「職場または学校」
会社の指示で個人アカウントを作るよう言われた いったん止まり、組織アカウントで済まないか確かめる

まとめ

  • Microsoftのアカウントは、組織が作って管理する職場または学校アカウントと、本人が作って管理する**Microsoftアカウント(個人アカウント)**の2種類
  • 判断の軸は機能や料金ではなく、そのアカウントの持ち主は誰か。個人の用途は個人アカウント、組織の用途は組織アカウント
  • 同じメールアドレスで2つのアカウントが存在することがある。個人アカウントを先に作り、後から会社が同じドメインをEntra IDに登録すると生まれる
  • いまはEntra IDに登録済みのドメインでは新しく個人アカウントを作れない。ただ、それ以前に作られたものは残っている。心当たりがあれば、個人アカウントのIDを個人のアドレスに変える
  • 同じアドレスで2つある相手を招待すると、どちらが呼ばれるかは確実には分からない。招待後にどちらで入ってきたかを確かめ、仕事の招待は組織アカウントで受ける
  • 仕事のために個人アカウントを作らない。会社の指示でも、一度立ち止まる