インストールしたばかりのClaude Codeと、日々使い込んでいるClaude Codeに、まったく同じ一文を頼んでみます。「YouTube動画撮影中、とBlueSkyに投稿してください」。
インストール直後のほうは、こう返してきました。BlueSkyへ投稿するためのツールや連携がこの環境には設定されていないので、直接は投稿できない。MCPサーバーを追加するか、APIを使うか、どちらで進めますか。APIを使うならハンドル名とアプリパスワードを教えてください——。
使い込んだほうは、「BlueSkyに投稿するスキルがあるので使いますか」と確認し、了承するとそのまま投稿を終えました。
モデルは同じです。頼んだ文も一字一句同じです。違ったのは、頼まれた瞬間にClaude Codeの手元に何が載っていたかだけです。この記事では、その「手元」にあたるコンテキストという考え方を整理し、Claude Codeの動きがおかしいと感じたときに何を疑えばよいかまでを判断基準としてまとめます。
コンテキストは机の上の書類、コンテキストウィンドウは机の広さ
似た言葉が二つ出てくるので、先に分けておきます。
- コンテキスト:Claudeがいま見えている情報の全部。会話の履歴、読み込んだファイルの中身、設定ファイル、使える道具の説明書などをまとめてこう呼びます。
- コンテキストウィンドウ:その情報を置いておける場所の大きさ。上限があります。
仕事机にたとえると分かりやすくなります。コンテキストは机の上に広げてある書類で、コンテキストウィンドウは机そのものの広さです。Claude Codeは机の上の書類を読みながら仕事をします。書類の中に、いまやりたい作業の手がかりが入っていれば、それを踏まえて動きます。入っていなければ、どれほど賢いモデルでも推測で動くしかありません。
そして机には限りがあります。書類を載せ続けていずれ置き場がなくなると、Claude Codeは古いやり取りを要約して、場所を空けながら仕事を続けます。この自動の圧縮(オートコンパクト)があるので作業は止まりませんが、要約されたものは元の書類そのままではありません。
Web版のチャットと何が違うのか
ChatGPTやClaudeのWeb版でも、同じモデルと会話できます。最近はメモリー機能もあり、過去の会話を少し覚えていてくれます。それでも基本は、真っさらな状態から始まり、その場で話した内容をもとに答えが返ってくる、という形です。何を覚えさせるかを利用者が細かく決める余地は多くありません。
Claude Codeは、自分のパソコンの中で動きます。パソコンの中にはすでに仕事のファイルやフォルダーがあり、どのフォルダーで起動するか、何を読ませるか、どんな道具を持たせるかを利用者が選べます。何も載せずに話しかけるだけなら、Web版とほとんど変わりません。 差が出るのは、机の上を自分で整えたときです。
言い換えると、Claude Codeを使いこなすとは、コマンドを覚えることより先に「この仕事のために、机の上に何を置いておくか」を決められるようになることです。
AIは、毎回すべてを忘れてから出社する優秀な人
もう一つ前提があります。Claude Codeのような生成AIは、会話が変わるたびに記憶を持ち越しません。とても優秀なのに、毎朝すべてを忘れて出社してくる人を想像してください。
その人の机の上に、担当しているプロジェクトの概要、いまの進み具合、作業中のExcelと参照する資料がそろっていれば、「これを進めて」の一言で「ああ、こういうことですね」と動き出せます。机の上に何もなければ、「どのプロジェクトのことですか。資料はどこにありますか」と聞き返すしかありません。冒頭のBlueSkyの例でインストール直後のClaude Codeがしたのは、まさにこの聞き返しです。能力が低かったのではなく、アカウントも投稿の手順も机の上になかったのです。
逆に、書類を載せすぎても困ります。関係のない別案件の資料が山積みになっていれば、必要な一枚を探すのに手間取り、話が混ざります。人間と同じで、必要な情報だけが、すぐ取れる場所にある状態がいちばん仕事がはかどります。
/context で、机の上を実際に見る
抽象的な話はここまでにして、実物を見ます。Claude Codeでは /context というコマンドで、いまのコンテキストの中身を表示できます。四角いマス目の全体がコンテキストウィンドウで、埋まっているマスが使用中の領域です。右側に内訳が並びます。
| 表示される項目 | 机の上の何にあたるか |
|---|---|
| System prompt | Claude Codeの作り手が最初に置いている基本の指示書 |
| System tools | ファイルを読む・書く・検索するといった標準の道具の説明書 |
| MCP tools | 外部サービスとやり取りするために追加した道具 |
| Memory files | CLAUDE.md など、毎回読ませる約束事のファイル |
| Skills | 仕事のやり方をまとめたスキルの一覧 |
| Messages | ここまでの会話そのもの |
| Free space | まだ空いている作業スペース |
| Autocompact buffer | 自動で要約するときのために取っておく余白 |
動画の収録時点(2026年3月)では、インストール直後の環境で100万トークンのうち約1万5千トークン、全体の約2%しか使われていませんでした。埋まっていたのはほぼ基本の指示書と標準の道具だけで、机はほとんど空です。一方、使い込んだ環境では、会話を始める前から Memory files・Skills・MCP tools・プラグインがそれぞれ場所を取り、見た目にも色とりどりに埋まっていました。項目名や数値はバージョンによって変わるので、細部は公式ドキュメントとあわせて確認してください。
ここで大事なのは数字そのものより、見れば分かるという点です。冒頭の二つの環境の差も、/context の画面を並べれば説明が要らなくなります。インストール直後と使い込んだ環境で /context を並べ、同じ依頼を投げ比べる様子は、第3回の動画の9分あたりから(無料)で画面ごと確認できます。色分けされたマス目は、文章で読むより一度目で見たほうが早く頭に入ります。
道具を積むほど、作業スペースは減る
使い込んだ環境は、道具が多いぶん「できること」が増えています。その代わり、道具の説明書も机の上の場所を取ります。機能を足すことと、作業スペースを残すことは引き換えです。
Claude Code側もこの問題を前提に作られています。現在の公式ドキュメントでは、MCPの道具は既定では名前だけが最初に載り、実際に使うときに詳しい定義を読み込みます。スキルも最初に載るのは一行の説明だけで、中身は使うときに読み込まれます。「必要になったら取り出す」仕組みが用意されているわけです。
一方で、CLAUDE.md は毎回のセッションの最初に必ず読み込まれ、その分のトークンを常に使います。ここに何でも書き足していくと、どの仕事でも机の一角をずっと占有することになります。つまり考えるべきは、次の仕分けです。
- いつも机に置いておくもの:どの作業でも前提になる約束事。短く保つ
- 必要なときだけ取り出すもの:特定の作業でだけ使う手順や道具。スキルやMCPに回す
- 机に載せないもの:いまの仕事に関係のない別案件の資料や、古くなった指示
机が広くなっても、この判断は要らなくならない
動画の収録時点で、コンテキストウィンドウはそれまでの5倍の100万トークンに広がったばかりでした。机が5倍になれば、覚えておける量は大きく増えます。この先もさらに広がっていくでしょう。
それでも、「机の広さに上限があり、その中に何を載せるかで結果が変わる」という構造は変わりません。いまの生成AIはそういう仕組みで動いているからです。机が広くなるほど、何でも載せられるぶん、関係のない書類が混ざりやすくなるとも言えます。新機能が増えても、この仕事の机の上に何があるべきかを考える習慣があれば、応用が効きます。
動きがおかしいと感じたら、まず机の上を疑う
ここまでの話を、実際に困ったときの判断基準に直しておきます。Claude Codeの返事が期待と違うとき、モデルの賢さを疑う前に、机の上の状態を確かめます。
| 起きていること | 机の上で起きていること | 打ち手 |
|---|---|---|
| 「何のことか分かりません」「情報を教えてください」と聞き返される | 必要な書類が載っていない | 毎回必要な前提は CLAUDE.md に、特定の作業の手順はスキルにして持たせる |
| 前の作業の話が混ざる、関係ないファイルを触ろうとする | 別の仕事の書類が残っている | 仕事の区切りで /clear して机を片付けてから始める |
| 長い作業の後半で、最初に決めたことが守られない | 圧縮で要約され、細部が落ちた | 守らせたい約束はファイルに書いておく。必ず実行させたい処理は会話ではなく Hook の仕組みで動かす |
| 調べものだけで机が埋まっていく | 大量のファイルを読んだ内容がそのまま積まれている | 調査はサブエージェントに任せ、結果の要約だけを受け取る |
| 会話を始めた直後から空きが少ない | 道具や約束事を積みすぎている | /context で内訳を見て、常に要るもの以外を外す |
どの行も、最初の一手は同じです。/context を実行して、机の上にいま何があるかを見ることです。
まとめ
- Claude Codeの結果の差は、多くの場合モデルの差ではなく、手元に何が載っていたかの差である
- コンテキストは机の上の書類、コンテキストウィンドウは机の広さ。机には上限があり、あふれると要約される
- 道具や約束事を積むほど、できることは増えるが作業スペースは減る。「いつも置くもの」「必要なときだけ出すもの」「載せないもの」を仕分ける
- 動きがおかしいと感じたら、まず
/contextで机の上を確かめる
机の上を整える具体的な手段、つまり CLAUDE.md の書き方、/clear や /compact による片付け、スキルやサブエージェントの使い分けは、どれもこの考え方の上に乗っています。机があふれていく様子と、あふれたときに性能を落とさず仕事を続ける方法は、第7回「コンテキストウインドウの限界を知る」(メンバー限定)で、実際に使用量が増えていく画面を見ながら扱っています。数字が増えていくのを一度目で追うと、どこで片付けるべきかの感覚がつかめます。




